【イベントレポート】「私の話は誰が聞いてくれるん?」元・適応障害プロコーチと考える、ワーママが“役割の鎧”を脱いで自分を取り戻す方法

仕事、育児、家事。毎日が「全力疾走」で、気づけばしんどくて、バーンアウト寸前…そんな状態になっていませんか?
今回は、CoParents代表の古村千尋が、CoParents所属の松本裕太コーチをゲストに迎え、「ワーママが心を守り、自分らしく生きるには」をテーマに対談を行いました。
実は松本コーチは、仕事と家庭のプレッシャーが重なり、適応障害になった過去があります。
「真面目な人ほど、周囲の期待に応えようとして『役割の鎧(よろい)』を着てしまう」と語る松本コーチ。
なぜ私たちワーママは追い詰められてしまうのか? どうすればそこから抜け出せるのか? 松本コーチ自身の体験と脳科学の視点から、じっくり語ってもらいました。
【登壇者プロフィール】

ゲスト:松本 裕太(まつもと ゆうた)
プロコーチ / 研修ファシリテーター / 子育てコーディネーター
化学メーカーに約15年勤務し、財務・事業・営業を経験。在職中にコーチングと出会い、現在は独立。CoParentsでワーママにコーチングを提供するほか、CoParents外でも個人向けコーチングの提供、企業研修や子育てイベントの登壇など幅広く活動中。2児(7歳・2歳)の父。

モデレーター:古村 千尋(こむら ちひろ)
CoParents代表。政府系金融機関、国際機関、エネルギー分野のベンチャー企業の勤務を経て、Wharton MBAに進学・卒業。4歳息子の母。
ある日突然、思考が「パタッ」と止まった
古村: 今日のテーマは「『元・適応障害プロコーチと考える』ワーママが心を守り、自分らしく生きるには」ということで、ちょっと辛い過去の話になってしまうんですが、裕太さんは実際に適応障害になったことがあるんですよね。当時はどんな状況だったんですか?
松本: 今から3、4年前ですね。ちょうど、仕事の異動、第一子の出産、家の購入、面倒を見るために父親を地方から呼び寄せるという4つのライフイベントが一気に来たタイミングでした。
仕事では、それまで経理だったのが全く畑違いの営業に異動になって。化学メーカーだったので元素記号から覚え直さないといけないし、飲み会や海外出張も多い。しかも、上司がいわゆるクラッシャーと呼ばれるようなタイプの方だったんです。
古村: うわぁ……それはきついですね。
松本: 僕は当時、「人の期待に応えよう」とか「求められたことをやろう」という思いが強くて。上司も癖が強い人だったから、そこにアジャストしようと必死でした。
家庭では、初めての子育てで妻も精神的に揺れる時期だし、地方から呼び寄せた父親の世話もしなきゃいけない。夜は妻に寝てもらうために僕が子供を見たりして……。
古村: 脳がオフになる瞬間がなかったんですね。
松本: そう。「妻の話は僕が聞く。上司の話は僕が聞く。親父の話も僕が聞く。でも、僕の話は誰が聞いてくれるん?」って状態でした。
常に誰かのために動いていて、半年ちょっと経った頃かな。急に、思考がパタッて止まるようになったんです。
古村: 思考が止まるというのは、具体的にどんな状況でしたか?
松本: 「次、何したらいいかわからへん」みたいな。複雑なことを考えようとすると、もう無理なんです。お風呂に入っていても仕事のことを考えているし、心休まる時間がほぼなくて。これはいよいよヤバいなと思って病院に行ったら、適応障害という診断でした。
真面目な人ほど着込んでしまう「役割の鎧」

真面目過ぎるワーママは「役割の鎧」を着込んでしまう。
古村: CoParentsの活動をしていると、真面目で頑張り屋さんなワーママにたくさん出会うんです。裕太さんもCoParentsで多くのワーママを見ているし、CoParentsの外の仕事でも色々な人の話を深く聞く機会がありますよね。たくさんの人とプロコーチや講師の立場で関わる中で、かつての裕太さんのような人や、かつての裕太さんみたいになりそうな「予備軍」の人って、令和の今も多いと感じますか?
松本: めちゃくちゃ多いと思う。やっぱり真面目な人ほど、期待に応えようとして「役割の鎧」を着てしまうんですよね。怖いのは、その鎧を着ていると「鎧が喋る」ようになることなんです。
古村:役割の鎧が喋るというのはどういう意味ですか?
松本: 上司から「次どうしたい?」って聞かれたら、上司が期待されている答えを察知してペラペラ喋れるんです。でも、「あなた自身はどうしたいん?」って聞かれると、急に声が出てこなくなる。
映画『千と千尋の神隠し』で、千尋が名前を奪われて「千」として働くうちに、自分の名前を忘れてしまうシーンがありますよね。あれと同じで、自分の本当の声が聞こえなくなってしまうんです。
古村: それはすごくわかります。私たちワーママも、「○○ちゃんのママ」「会社の○○さん」「▲▲さんの妻」など、果たすべき役割が多いです。だから、すべての役割を自分から外した時の「何者でもない私」が何をしたいのか、わからなくなる時があります。
松本: 特にワーママの方は、役割が多くて複雑で、自分の思いだけで物事を決められないことが多いですよね。全部の役割が密接に絡んでいるから、一つを役割を果たそうとすると「じゃあこっちの役割はどうなるの?」とぐるぐる回って解決策が見えなくなる。常に心も体も全力疾走している状態です。
「Netflixを見て休憩」は、実は脳が休まっていない
古村: 常に全力疾走って、やっぱり危ないですか?
松本: 危ないですね。人間でいうとノルアドレナリンというホルモンが出続けている状態です。これは火事場の馬鹿力なので、一瞬ならいいけど継続はできないものです。ノルアドレナリンがずっと出た状態だと、いつかストンと電源が落ちて、バーンアウトしてしまいます。
あと、脳の「扁桃体(へんとうたい)」という部分がストレスを感じると、体が闘争・逃走反応モードになります。そうすると、本能的に、自分にとってネガティブな情報を優先的にキャッチするようになるんです。
例えば、大昔に人間が狩猟で生活していた時代は、狩りに出た時はノルアドレナリンが放出されている状態になっていました。自分を攻撃するかもしれない対象に早期に気付くことで、自分の身を守るためです。現代社会でも、ノルアドレナリンが出ていると、似たような状態になります。
古村: たとえば、「あの人は私の悪口を言っているかも?」と、別に何も言われていないのに考えてしまうとか?
松本: そうそう。上司の些細なアドバイスを、「あの上司の一言は、私を批判しているんじゃないか?」って思ったりとか。レベル1のネガティブをレベル10や20に膨らませて受け取ってしまう。常に防御態勢だから、冷静な判断をする脳の機能である前頭前野が働かなくなるんです。
古村: ノルアドレナリンが継続して出ている状態を止めて、冷静な判断ができる状態に戻るにはどうしたらいいんでしょうか?
松本: まずは一旦止まることが大事です。1日5分でもいいから、瞑想やヨガのように「今」に意識を向ける。そうしてノルアドレナリンの放出を止めるんです。
よくやりがちなのが、ストレス発散のためにNetflixを見たり、スマホでネットサーフィンをすること。あれは自分に刺激を与えて、ドーパミンを出しているだけ。ドーパミンの放出は実はストレスホルモンであるコルチゾールをごまかしているだけで、ノルアドレナリンの放出は止められていないんです。
古村: えっ、私、休憩時間にすぐにYouTubeを見ちゃってます。
松本: それだと逆に疲れてしまうんです。
大切なのは、日光を浴びる、散歩するなどしてセロトニンを放出すること。あとは、スキンシップによりオキシトシンを放出すること。特にオキシトシンは、20秒のハグで出ると言われています。子供とのハグは、自分にも子供にもオキシトシンが出るのでおすすめですよ。
現代の子育ては「無理ゲー」だという前提に立つ

古村: 理屈では「止まることが大事」とわかっていても、真面目な人ほど休むことへの罪悪」や敗北感を感じてしまうと思うんです。人にお願いする、休む=悪、みたいな。このメンタリティはどうしたらいいでしょう?
松本: そもそも、人間は子育てを一人でするようにはできていない、という動物的な事実を知ってほしいです。
人間の歴史を250万年として、それを1年間に置き換えると、今のような「核家族で、一人で子育てをするようになった期間」ってたったの4分なんです。
古村: ええっ、たったの4分!?
松本: そう。1年の最後の4分の出来事に、人間はまだ適応しきれていないんです。だから、仕事をしながら一人で子育てなんて、動物として到底無理な話なんですよ。
みんな無理ゲーを一生懸命やっている。 だから、うまくできなくて当然です。少し休んで家が汚かったりしても、大したことじゃないんです。
古村: その前提に立つと、少し気が楽になりますね。
松本: あと、人間とゴリラって成人と赤ちゃんのサイズ比が全然違うんです。ゴリラの大人は数百キロあるのに、赤ちゃんの体重は人間の赤ちゃんと同じくらいなんです。だから、ゴリラは片手で赤ちゃんを抱っこできる。でも数十キロしかない人間の大人は片手で赤ちゃんを抱っこできません。両手を使わないといけない。だから、赤ちゃんといると他のことができない。だから他の人のサポートがないと子育てできないんです。
古村:もう人間は構造上、1人で子育てができない仕組みなんですね。
松本:その前提を忘れないで欲しいです。
自分の声を自分で聞く効果
古村:とはいえ、それでも頑張り続けなければと思ってしまうワーママさんも多いと思うんです。一旦休むという意識に切り替えるために、何が有効でしょうか?
松本:まずは、 自分の思いや状態に「気づく」ことが大事です。そのために「オートクライン効果」を使うこと。オートクライン効果とは、自分で話した内容を、声を、自分で聞くことにより、自分の潜在的な考えに気付くことです。
人間って、頭の中で考えている時は単語レベルなんです。「あれ、しよう」「これ、嫌」とか。でも、誰かに話すとそこに文脈や声のトーンが生まれる。
そうやって肉付けされた自分のストーリーが、自分の声で話されるのを聞くことで、「あ、私こんなふうに思ってたんや」と整理されていくんです。
古村:なるほど。一方で、 話す相手も大事ですよね。たとえば、フルタイム勤務×ワンオペを乗り越えた経験のあるワーママの先輩に相談すると、「私は乗り越えたけど」という反応をされることがあります。心理学上、人は自分が乗り越えた苦労を乗り越えられない他人に厳しくなる傾向があります。だから仕方のないことなんですが。
松本: そうですね。だから、話を否定せずに「そうだね」って受け止めてくれる人を見つけるのが大事です。話を聞いてもらえていると感じると安心して、オキシトシンが放出されます。すると、ドーパミンが放出されて、また頑張ろうという意欲が湧いてきますから。
一旦立ち止まることでストレスを下げる。オートクライン効果を発揮できる自分なりのリソース(=話し相手)を持つ。この2つの解決策のバランスを取ることが大切です。
Q&A:夫や義母に子供を預けて休むことに、罪悪感があります
古村:参加者の方から質問が来ています。 「一休みするために、子供を義母や夫に預けることに後ろめたさがあります。預ける相手への遠慮が抜けません。人に頼って休むことを少し楽に考えられるヒントをいただけないでしょうか?」
これ、すごく共感される方も多い悩みだと思います。裕太さん、どう捉えたらいいでしょうか?
松本: 「親が休んで幸せになることは、子供のためなんだ」と考えてみてほしいです。 自分のためだけに休むのではなく、自分に余裕ができることで、子供たちにより良い関わりができたり、自分が楽しそうにしている姿を見せられたりする。それが結果として、子供にとっても「この家は楽しんでいい場所なんだ」という安心感につながります。
古村: 自分が休むことが、巡り巡って子供のためになる、と。
松本: そうです。研究でも、子供が幸せだと実感することに一番相関があるのは、親自身が幸せであるという実感だという結果が出ています。親がご機嫌でいることが、子供にとっても一番の幸せなんです。だから、「子供のために私はリフレッシュするんだ」「私が良い状態であることが、子供への最高の教育なんだ」とマインドを変えてみてください。お母ちゃんが元気だと家も明るくなるし、子供たちもオキシトシンが出て「やっていこう!」ってなりますから。ぜひ、遠慮せずに休んでください。
古村: ひと休みすることは、自分だけでなく、みんなの幸せにもつながるということですね。質問ありがとうございました!
おわりに
古村: オートクライン効果を発揮できる話し相手というのはとてもレアだと思います。友人や同僚と話すときは、相手の話も聞かないとと、気を遣って話しにくいというワーママさんもいらっしゃいました。だからこそ、プロコーチと話すという選択肢も皆さんにはお持ち頂きたいです。
そして、長い歴史から見れば今の状況は「無理ゲー」なんだから、堂々と止まっていい。
今日の話で、少しでも皆さんの「役割の鎧」が緩めば嬉しいです。裕太さん、ありがとうございました!
いかがでしたか?このイベントレポートを読んだあなたが、「ちょっとお休みしても、どうにかなるかな」と思って頂けるなら、嬉しいです。
そして、CoParentsは仕事と子育ての両立やキャリアに悩みを抱えるワーママに皆さんを、コーチングという手法を通じてお手伝いをしています。
このイベントに登壇した松本裕太コーチをはじめ、ワーママに理解のあるプロコーチが多く在籍しています。この記事を読んでコーチングに関心を持たれた方は、ぜひ体験コーチングをお申込み下さい。
